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5章 ベラ 2節 策士

 私がロチェストにいるとフィオナ達にばれたら、後で大目玉を食らうだろう。その前に、私に撒かれたリシタが半殺しにされるか。急いで帰らなければならない状況で、おじさんを知る人に会えたのは助かった。
「ヤックか。それなら私の副官だが。」
出てきたのが金髪ゴリラでなければ。
「お前がマリーか。腕が立つと聞いている。丁度良かった、お前を騎士学校に推薦しようと思っていたところだ。」
きな臭い話になっていなければ。
「私はルダレック、王国騎士団副司令官だ。」
金髪ゴリラが、よりによってフィオナの天敵でなければ。

5章 ベラ
2節 策士

 なにが悲しくてこんなゴリラとお茶会しなきゃいけないの。私おじさんに会いに来たのに。もっとダンディーで加齢臭もしない優しいおじさんと!
「聞いたとおり、警戒しているようだな。無理もないか。まず言っておこう、お前を捕らえるために甘い話をぶら下げているわけじゃない。」
騎士学校のどこが甘い話だ。
「君はサキュバスだそうだな。運命の相手に出会わない限り死なない上に魔法に長けている。騎士団としては放っておくのはもったいない存在だ。お前も、魔族と人間に狙われる立場で苦労しているだろう。騎士団に入れば、魔族に単独で狙われる危険も減る。人間からもだ。悪い話じゃないだろう?」
はなから乗る気なんてないので、話の半分も頭に入っていない。
「何とかいえばどうなんだ。」
ルダレックの化けの皮が剥がれかけたとき、王国騎士団事務室の扉が開いた。
「おや、マリーか?」
おじさんだ。このゴリラから解放されたくて、失礼も顧みず立ち上がっておじさんの方へ逃げると。おじさんが眉を片方だけ下げて笑った。
「何でお前に伴侶がいるのか不思議だ、ルダレック。何をしたらマリーにこれだけ怖がられるんだ?」
「普通に話していただけだ。」
「どうせ仏頂面だったんだろう?マリー、騎士団の話か?」
頷くと、くしゃくしゃと頭をなでられた。
「悪いな、びっくりさせて。ルダレックに推薦したのは私だ。ルダレックに言われただろうが、君は野放しにするには些か不用心すぎるからな。」
おじさんは、人間に奥さんを殺されたと言っていた。なのに何故、こんな腹黒い騎士団に私を入れようとするんだろう?
「……ルダレック、お前が怖がらせるからだ。私は信用されていたんだが。」
「知るか。私は最大限優しく話したつもりだ。」
ルダレックと言い合いながら、おじさんは私に手を差し出した。
「こんな堅苦しいところじゃ息も詰まるだろう。私と散歩しながら話そう。」
おじさんがくいっと方眉を上げた。どうやら、こうなったのには、ここで話せないわけがあるらしい。

 おじさんに連れてこられたのは、なんだかよくわからない建物だった。
「ロセンリエンの迷宮だ。」
「これが!?」
「知ってはいたのか。傭兵たちの間では有名だからな。王国騎士団総司令のカダン以外クリアした者がないと。」
ロセンリエンの迷宮といえば、私がまだコレンに来たばかりの頃、規格外に強かったハルクが挑戦して失敗した場所だ。なんでも、フィオナとリシタとカロックと私のドッペルゲンガーがいて、ぼっこぼこにされたんだとか。
「だから誰も追ってこない。ゆっくり話が出来るぞ。」
そんな危ないところ、入りたくない。顔に出たのか、頭を撫でられた。
「実を言うとな、何も知らない子供がここに入ったら、無傷で最下層に行ける。この迷宮は、怖がる心につけ込んで幻覚を見せる。だから、自信満々のカダンに対しては、倒せる敵しか出なかったんだよ。」
「おじさんはクリアしたの?」
「昔な。」
そう言って一歩踏み入れると、部屋は、あの森の中の家になった。
「私は幼い頃、魔族に襲われて母を殺され、父とはぐれた。成長して妻と息子とこの家に戻ってきたが……魔族に妻を殺され、私も死にかけ、息子は行方不明になった。ずっとこの家に帰りたかった。」
この家に?
「おじさん、これは私の家よ。」
「知っているとも。私はここに住んでいたという男に、君のことを見つけたら守ってくれと言われていたんだから。」
「おじさん、その人誰!あのクロスボウの男も、私に幻覚でこの家を見せたの。ここはどこ?あの男は誰!おじさんは誰なの!」
胸ぐらをつかんで怒鳴ってしまったが、おじさんは微笑んだだけだった。
「あの男はおそらく、ここに住んでいたことがあるんだろう。そして不運にも、妻と子供を失った。君はサキュバスだ。愛しい人の姿に見えることもある。あれだけ錯乱していたら尚更だろうな。」
「そんなのおかしい!あいつは私とおじさんを殺そうとしたんだよ!」
おじさんが押し黙る。ふっと遠くを見た。森の奥だ。
「あっちから、魔族が来た。」
かすかに笑う。
「私のもっとも恐ろしい思い出だ。妻と息子を守れなかった。目の前で妻が殺されるのを見るくらいなら、魔族に負けると決まっているなら……もう一度おいて逝かれるくらいなら、私は自分の手で妻を殺すだろう。誰にも、妻は渡さない。」
おじさんはその場に座り込み、空を見上げた。
「そういうものだ。」
 この森は穏やかだった。ただただ静かで、空気がきれいで、黄緑色の光が温かい。
「良いところだろう?ここで、誰にも見つからず、三人で幸せに暮らしたかった。」
と、私の横に女性が現れた。銀髪に、褐色の肌、銀色の瞳、これは……
「私の妻だ。君によく似ているだろう?」
私に生き写しだ。女性は座っているおじさんの隣に座った。
「もう隠せそうもない。何故ここで悲劇が繰り返されるか教えてあげよう。但し交換条件だ。もう直ぐ魔族が現れる。倒せ。」
おじさんは、女性が見つめても目を合わせようとしない。声が震えていた。
「私は死んでも、拷問で手足を千切られても何も怖くない。ロセンリエンの迷宮は、妻を殺されたあの時を私に見せる。妻にも魔族にも、指一本触れることは出来ない。……だが、これは君の恐れているものじゃないだろう。君なら幻覚を壊せる。」
森の中に、無数の影が揺れている。私が手を掲げただけで、影は崩れていった。気付けば、女性も薄れていく。女性は驚いたような顔をして、そして笑った。
「そうだ、きっと終わりだ、イヴィ……」
おじさんは女性の頬をなで、にっこりと微笑んだ。
「イヴィ?」
「驚いたか?あの男が言っていた名前だろう?」
女性が消えると、森も消えた。
「サキュバスは、恋人と結ばれるため、自分と恋人を引き裂いた力を滅ぼすために生まれてくる。イヴィは私の妻として殺された後生まれ変わり、私に似た男と恋に落ちた。」
「寂しくないの?」
おじさんは首を振る。
「寂しいに決まっているだろう。だが、私もあの子を妻だとは思わなかった。そりゃそうだろう、妻は生まれ変わって幼子に戻っていたんだから……クロスボウの男が二人目のイヴィを育て、妻とした。しかし亡くなってしまったようだ。そしておそらく、君が三人目だ。」
「え、待ってわからない」
おじさんのお嫁さんがイヴィで、クロスボウのお嫁さんもイヴィで、それが生まれ変わって私になった?
「私はおじさんのお嫁さんなの?」
「いや。君は選ぶ力を持った一人のサキュバスだ。前世になんて縛られなくていい。私が君につきまとっているだけだ。マリー、君には君の選んだ男がいる。本当は、私はその男に君を守れとは頼まれていない。私に頼まれたんだ。妻の不運な転生をこれ以上起こさせないようにとな。君が選んだ君を捜す男がいるのは事実だが、生憎君を捜し出せていないようだ。その男が君を見つけるまで、私が守ろう。」
頭に置かれた手がとても温かい。おじさんの長いまつげに付いた涙が、たいまつの光できらきらしている。本当にかっこいい人だ。
「その人じゃなくて、おじさんのお嫁さんだったら良かったのに。そしたらリシタも忘れて、恋煩いなんてしなくていいし、おじさんの方がかっこいいし。」
「おじさんをからかうもんじゃない。……リシタが好きなのか。」
おじさんににやりとされ、私は口を滑らせたことに気付いた。
「ちょっと、内緒よ!」
「お前を捜す男がいささか不憫だが……リシタに取られる程度の男じゃあ、マリーには不釣り合いだろうな。しかし、リシタも見る目のない男だ……。」
するりと頬をなでられて、背中がぞわっとした。
「こんなかわいい子を逃がすなんてな。」
「おじさんこそ、子供だと思ってからかわないで!イヴィさんが天国から怒るよ!」
「怒らないさ。」
おじさんは笑って立ち上がったかと思うと、私の目をじっと見つめながら言った。
「俺はもう、イヴィ以外は愛せないからな。」
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