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4章 フィオナ 3節 先立たれる

 2人でちょろっと行って、南瓜だけ持って帰って、それでフェネラさん達が喜んでくれれば、アリスも満足するだろう。まだ幼いから、人の役に立ちたいだけだろう。
 そう思っていた私は、アユルンの門を火で溶かした瞬間に自分の考えが甘かったことを思い知った。溶けかけた門を壊すように、巨大なツルハシが飛び出してきたのだ。
「マリーさん!」
「うるさい、騒ぐな。襲われて当然でしょ?まあ、待ちかまえられてるとは思わなかったけど。」
ツルハシの持ち手のあたりを狙って火の玉を飛ばすと、向こうから断末魔の悲鳴が聞こえた。
「……強いですね」
「だてに囮やってるわけじゃないから」
門をくぐると、カロックくらいの大きさの人型魔族が灰になるところだった。なるほど、これと人間の混血ならハルクみたいになりそうだ。

4章 フィオナ
3節 先立たれる

 アリスは少し笑顔を見せるようになった。やっぱ怖かったんじゃないか。その後も襲いかかってくる魔族をなぎ倒していく。どうもこいつらは注意力がない。操られているからかもしれないけれど、私から妙に視線がずれている。というか、珍しくアリスの方に目が向いているようだ。
「アリス、狙われやすいの?」
「いえ、でもやっぱり僕を狙ってきますよね?」
アリスが一々びくつくのも、大勢に見つめられるからだろう。でもなんで。操られているなら、操ってる奴は、何故弱いアリスを狙い続ける?騎士団だから?
 いや、ならば騎士団が調査を怠るはずがない。何がどうなっているの?
「アリス、私が思うに、ここは長居すべきじゃない。何もかも辻褄が合わない。誰かが、嘘を吐いてる。」

「忘れたのか、イヴィ?」
突然の声に見上げれば、屋根に男の影が見えた。
「マリーさん!」
アリスが剣を抜き、私を庇うように立った。それを見て男が笑う。
「騎士学校の生徒か。夢見る少年には酷かもしれないが、知っておいた方がいいだろう。」
屋根から軽やかに降りてきた男の顔が、月明かりに照らされた。色白な肌、赤い瞳。陰影のくっきりした顔は、どこか見覚えがある。あまりに美しくて恐ろしい程の彼は、ゆっくりとボウガンを持ち上げた。
「イヴィ、思い出せ。誰に殺されたか。俺からイヴィとカイを奪ったのは王国騎士団だ。」
この男が何を言いたいのかはわからないが、この矛盾だらけの言葉はアリスを怒らせた。男に剣を突きつける。
「王国騎士団を侮辱するな!」
「坊ちゃん、下がっていてくれないか。私はターゲット以外を殺したくないんでね。」
それに、と男が見やった先には、先ほどまでより大きいゴブリンが迫ってきている。
「君にはやることがあるんじゃないのか?可哀想に、君の正義感が仇になるだろうがな。君の望まない物が出てくるだろう。」
君の正義感が仇になる、君の望まない物が出てくる、アリスは騎士団に憧れている……アリスを狙い続けるゴブリン。この男を信用するにせよしないにせよ、様々な噂の立つアユルンにアリスを連れてくるべきじゃなかった。
「アリス、この頭おかしい奴の相手は私がする。ゴブリンを撒いて逃げなさい!」
ゴブリンの群の中に、通路を作るように二枚の氷の壁を立てる。仕上げにアリスの背中を蹴飛ばして、男に向き直った。

 アリスがいなくなると、男はボウガンを下ろした。
「まるで生き返ってきたみたいだな、イヴィ。」
男がそっと私の頬にふれる。さっきまでが嘘みたいに優しい目をしていた。
「本当に何もかも忘れたのか?カイの事なんて、命がけで守るぐらい愛していただろう?それとも、守れなかった俺に幻滅したから、記憶から消したのか?」
手が首を撫でた。包み込むようにそっと。温かくて気持ちがいい。どうしてだろう、周りの火が消えて、綺麗な緑の森が広がっている。男の背後には小さなログハウス。屋根に登るはしご。私が浮かせた屋根板は、乾いて太陽の光で温まっている。
「忘れていい、消してかまわない。だからもう離れないでくれ。あんな嫌な記憶忘れていいから、俺とずっと一緒にいてくれないか。このまま元の道を歩んで、奴らに殺されないでくれ。」
男の目から流れた涙が、緑色の光を浴びてきらりと光る。息が苦しい。
「そのまま息を止めてしまえばいいんだ。もう離れることもない。監禁されることもない。殺されることもない。ずっと一緒だ。」
首が痛い。頭が重い。男の瞳に私が映った。歪んだ笑みの中に、苦しそうな、首を絞められた私が見える。このまま眠ってしまえば、燃えた村になんて戻らなくていいんだ。そんな考えが頭を過ぎった。

 リシタも、フィオナも皆、私以上に思う相手がいる。私、寂しかったんだ。リシタとベラとカロックの家族の枠には入れない。フィオナとベラも私よりお姉さんで、いつも二人で話している。ハルクは村の英雄。ある日突然、村を滅茶苦茶にするような爆発を起こして娼館から逃げてきた私を、コレンの人は暖かく迎えてくれた。でも所詮余所者で、魔族で、私の力は人を惹き付けるというものだ。私を生んだ誰か以外は、私が騙して好きにならせているようなもの。でも、私だけを愛してくれたあの人ならば……。

 突然体がぐらっと揺れ、周囲の森が消え去った。目の前には、倒れた男と、それを踏みつける王国騎士。いや、おじさんが立っていた。
「まったく、こりゃやっかいな相手だ。サキュバスのハーフか。」
「てめえ……っ!」
男がボウガンを構えると、おじさんはひらりと飛び退いた。ボウガンとは思えない勢いでボルトが連射される。そのうちの一本が腕を貫通した。
「おじさんっ!……ファイアボール!」
男に火の玉を飛ばした。火が男を飲み込み、服やら髪やらを焼いていく。が、焼けた先から再生していった。
「サキュバスの、ハーフ……」
「ああその通りだ。攻撃しても無駄だぞ。特にマリーが近くにいる間はな。ここは逃げるぞ。」
おじさんが、怪我したはずの腕で私を抱えた。走れると言ってもおろしてくれない。微かに笑って、頭を撫でてくる。不意に両腕で抱きしめられた。
「君を守ってくれと頼まれたからな。」
耳元で優しい声。すぐに走り出したおじさんの足元に、ボルトが次々打ち込まれた。あの男は誰?イヴィって、カイって誰?あの異様な武器は何?それより何より、おじさんは何者なの?先程から、人間とは思えない動きで、私を抱えたまま屋根から屋根へ飛び移っている。体に刺さったボルトも見えた。
「おじさん、私をおろして!あいつが狙ってるのは私だから!」
おじさんは答えない。ただ、だだっ子をなだめるように笑っただけだった。
 頼まれたって、どういうこと?おじさんは私が誰か知っているの?後ろから追いかけてくる男は、何故か私を狙わなかった。おじさんが次々被弾していく。
「おじさんっ!」
ぽんぽんと背中を叩かれた。
「大丈夫だ。こっちへ行けばリシタがいるから……」
「リシタ?」
「アリスを追っているようだった。全部で5人くらいだな。……っ!」
突然おじさんの体が傾いた。
「くっそ……足が……!」
私を抱えたまま、おじさんの体が屋根を超える。
「アイ……」
重力が消え、出掛かった呪文も止まってしまう。何の支えもないまま、私達は地面に叩きつけられた。

 思ったほど痛くない。
「忘れやしない、王国騎士団……二度とイヴィは渡さん……」
ふと上を見れば、男がボウガンをこちらへ向けていた。下から呻き声が聞こえる。おじさんが下敷きになっていた。
「イヴィ、生まれ変わったら、今度こそずっと一緒にいよう。心配するな。すぐに俺も逝く。」
おじさんの手が、私を引き寄せる。
 と、男が後ろに飛び退いた。
「……リシタか。」
「久しぶりだなあ、ヤック……てめえ、女に暴力か?ターゲット以外には手を出さないって、あんたのやり方じゃなかったのか?」
屋根の上には二刀流の男。リシタの剣は男の喉にぴたりと当てられている。
「何やってんだ、マリー。さっさとおっさん治療して逃げろ!」
「俺より王国騎士を取るのか、イヴィ?」
今度こそ私を狙ったボウガンだったが、再び阻まれた。ボウガンを持った右腕に矢が刺さっていた。
「馬鹿なことはやめろ。殺せる程度にしか愛していない女なのか?私には、お前がこの子を殺せるとは思えないが。」
おじさんがゆっくりと起き上がる。男は左手にボウガンを持ち、リシタと打ち合っていた。明らかにリシタが優勢だ。少し離れても大丈夫だろう。
 おじさんはまた私を抱え上げた。
「もう下ろしてってば!」
「駄目だ、マリーを守ると約束したからな。アユルンは危険だから入るなと言ったのにお前という奴は……」
笑いながら、ひょいひょいと屋根に登る。
「だってアリスが1人で行くとかって馬鹿なこと言うから!」
「アリス!」
ハルクの叫び声が聞こえ、下を見た。

 墓場の中を走るアリス。赤い大きなゴブリンが追っている。もう逃げ場がなかった。
「アリス、こっちよ!」
フィオナが叫びながら、何度も柵に体当たりしている。燃えている村の鉄柵は熱く、盾のないベラとハルク、カロックには為す術がなかった。
 私達が見ている前で、ゴブリンの手がアリスの頭を掴む。と、視界が真っ暗になった。
「見るな。」
おじさんの声がする。フィオナ達の声が消えた。ただ、パチパチと家が燃える音だけ残った。
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