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4章 フィオナ 2節 王国騎士

 コレンの門が開く。驚いて見ると、フィオナが立っていた。
「マリー、何も言わずにいなくなるなんて!アリスがアユルンに行ってからおかしくなって、最近姿を見ないって聞いて……マリーにも何かあったんじゃないかって心配したのよ!」
駆け寄ってきたフィオナにぎゅっと抱きしめられる。数歩ロチェストヘ戻っていたおじさんは、こちらを見てふわりと微笑んだ。
「村の人に心配をかけるなよ。南瓜も一緒に探してもらうといいだろう。」
その声に、フィオナがはっと顔を上げた。

4章 フィオナ
2節 王国騎士

 次の瞬間、おじさんが立っていたところに剣の軌跡が光った。フィオナだ。唖然とする私の前に、おじさんがふわりと着地する。
「フィオナ!?」
「マリー、その男から離れなさい!」
後ろから怒声が聞こえたかと思うと、盾を構えて突進してきたフィオナにおじさんが吹き飛ばされた。が、くるりと回転しながら起き上がり、振り下ろされたフィオナの剣を素手で掴んで止める。フィオナの顔が強張った。
「っ!」
「なかなかの腕だな……お嬢ちゃんの保護者か?」
「何故マリーに近づいたか言ってみろ!」
フィオナが叫ぶ。意味が分からない。
「王国騎士が……マリーまで実験材料にするつもりなら、差し違えてでも殺してやる」
激昂するフィオナに、おじさんは、ああ、と溜息を吐いた。一体どうしたんだろう。フィオナいわくおじさんは、王国騎士らしい。改めてみれば、おじさんの胸にはドウィンさんの帽子と同じマークがついている。でもそれが、どうして問題なのか。実験って?
「君は、ロチェスト内乱の被害者だったのか……。誓って言おう、私は法皇庁側の人間ではない。君に恨まれて当然ではあるがな」
置いてけぼりの私をよそに、おじさんは続けた。
「私はあの日、武装していない人間や女子供は一切手に掛けなかった。だが、あの内乱を、収め、全ての住民を避難させる力を持たなかったのも事実だ。」
「騎士団が実験の反対派を殺したのは事実よ!絶対に許さない。」
剣を引き抜こうとしたフィオナだったが、おじさんに掴まれた剣はぴくりとも動かない。おじさんが首を振った。
「話を聞いてくれないか。どっちみち、この状況は君に不利だ。」
と、おじさんは剣を手放した。フィオナが身構える。しかし、おじさんは背負った弓をおろすと、フィオナに差し出した。
「不安ならば持っておくといいだろう。」
しばらく考えた後、フィオナは首を振った。何故かよくわからないけれど、おじさんを信用することにしたらしい。

 フィオナがおじさんを警戒した理由……それは、おじさんが王国騎士だったからだった。10年前のロチェスト内乱。王国騎士と反乱軍の争いは、ロチェスト住民にも被害をもたらした。多くの民間人が犠牲になり、中には騎士に殺された者もいたという。
 あれからフィオナは、右往左往しているハルクと、アリスを捜しにロチェストへ行ってしまった。アリスというのは、ドウィンさんに付いてきていた騎士学校の男の子だ。おじさんもフィオナも、私には何も教えてくれない。ただ、アユルンへは近付くなと言うだけ。
「どうして皆、アユルンに拘るんだい?」
アユルンには何があるのかとフェネラおばさんに聞くと、悲しそうな顔で首を振られた。
「関わっちゃいけないよ。私は何も見ていないと言うと約束したんだ。」
「約束……ってことは……言葉の通じる相手と?」
「……何も言えないよ。」
おばさんは目を逸らし、桶から染めている布を持ち上げた。
「そんなことより、ハロウィンを楽しみなさい。南瓜の飾りが無くても、かわいい仮装の女の子だけで華やかな祭りになるからねえ……マリーは何の仮装をするんだい?」
思い切り話題を変えられ、戻すだけの図太さなんて私にはない。大人しく答えようとしたときだった。

 背後からの足音に振り返ると、アリスが立っていた。
「あの……ハルクさん知りませんか?」
様子がおかしかったなんて思えないほど元気だった。
「ハルクなら、アリスの様子がおかしいってロチェストまで追いかけていったけど?」
「ええっ!?じゃあ入れ違いになったんですね。良い知らせがあったのに……僕、アユルンの調査を騎士団直々に許されたんですよ!フェネラさん、貴女の街がどうしてあんな事になったのか、僕が明らかにします。原因が分かれば、今度はもっと強い街を作りましょう?」
アリスの笑顔に、おばさんも驚いたような顔はしたものの、頷いた。
「嬉しいねえ、騎士団の人が力になってくれるなんて。」
「任せて下さい!あ!」
アリスが私の後ろに手を振る。
「ハルクさん、良い知らせがあるんですー!」
急いで戻ってきたのだろう、ハルク、フィオナが思い切り溜息を吐きながら首を振っていた。
 ハルクがまずしたことといえば、アリスを抱き上げてがんがん揺さぶることだった。
「ふらっと出て行くから心配しただろ!」
心配するなら今のアリスの首を心配してやるべきだと思う。
「先生に聞いてみるって言ったじゃないですか。そうなんですハルクさん、校長先生が掛け合ってくれて、騎士団からアユルンの調査を許されたんです!それも僕が責任者です!」
驚いたハルクが手を止める。フィオナも目を丸くした。
「騎士団がアユルンの調査を許した?」
アリスが頷く。
「ドウィン様は心配性だから内緒です。あと、びっくりさせたいから!」
きらきらした目で言うアリスに、フィオナは腑に落ちないという顔で首を傾げた。それを気にもとめず、アリスは宿へ走っていった。ティイに自慢するつもりなんだろう。

 みんなの話からするに……まず、ドウィンさん曰わく、アユルンへは騎士団から立ち入り禁止命令が出ていた。でもハルクやアリスは、言いつけを破ってアユルンへ行き、ショックな物を見た。アリスは学校に戻って……アユルンの調査を依頼したのかもしれない。それにしては、フィオナたちの驚き方が変だったのは気になるけれど……。
「ハルク、アユルンには何があったの?」
「自分の意志で動いていないゴブリンだ。妙な感じはしたけど、アリスが何故あそこまで動揺したのかはわからない。まあ、一度も戦場に出たことがないなら、人骨の転がった村は気持ちのいいものじゃないさ。」
自分の意志で動いていない……ということは、何かがゴブリンにアユルンを襲わせているということ。わざわざそんなことしなくても、ゴブリンは人間の村なら襲いそうなものだけれど。
「わからないわね……アユルンは綺麗で穏やかな村だったはずよ。魔族からすれば襲っても意味はないし、人からしても特に資源もない、恨みもないわ。誰の仕業?」
フィオナも頬杖をついて顔をしかめている。ハルクは剣の手入れを始めた。流石リシタ並みの脳筋だ。
「それを騎士団も調査してるんじゃないか?戦時に内輪もめなんて最悪だろ?」
考えることを放棄したハルクを横目に、私はハルクの言葉が間違っていると直感的に思った。
 ゴブリンを操っているのは人間だと思う。魔族にはそうする理由がない。でも、それくらいは騎士団の中で一番頭が悪い奴でもわかるはずだ。そして、それは魔族が攻めてくるより忌むべき事態だ。ここまではハルクの言うとおり。
 でも、それを理由も無しに今の今まで放っておくだろうか。最初に救助にあたったとき、操られたゴブリンがいたはずだ。なら、危なかろうが何だろうが、調査するはずだ。今まで調査しなかったのは意図的だということになる。ならば何故今更調査を?
 だめだ、矛盾が多すぎる。ただ、おじさんに言われたことを思い出す。おじさんは、魔族に襲われただけの村ではないと言った。サキュバスをこれ以上殺されたくないから行くなと。おじさんのお嫁さんは、人間に殺されたと。

 アリスを次に見かけたのは、寝る前だった。鎧戸を閉めようとしたとき、傭兵団事務所から出てくるところが見えた。周りに人がいないか確認してから、船着き場へ走っていく。
 私に見られていることにすら気付かない子が1人でアユルンに行こうだなんて。只でさえ疑惑の多い場所だ。
「アリス」
名前を呼べば、びくっとしてこちらを見る。全く、肝の小さい奴。
「ドウィンさんに怒られるよ」
「功績をあげれば……」
「一般人の視線に気づけない子が何言ってんだか。」
窓から屋根に出て、隣に飛び降りた。
「私は傭兵団員じゃないの。どこに行こうと罰なんて受けないから……どうしても行きたいなら私がついて行く。」
アリスが思い切り首を振った。囮だとかなんとかもごもご言っている。
「魔族が多くて危険だと言いたいの?」
「そうですよ!信じられないくらいの数が……ましてマリーさんは魔族に狙われやすいってドウィンさんが!」
綺麗な澄んだ瞳が、心なしか潤んで見えた。怖いならそう言えばいいのに。男の子ってどうでも良いところで意地を張る。
「今日はリシタさんもいないんですよ!」
「悪いけど、私単体でも貴方よりは強いから。第一、1人で行って、戦いながら調査できるの?相手全滅させないと調べるどころの話じゃないでしょ。」
私と行きたくないならドウィンさんと行きなさい。そう言うとアリスが固まる。どんだけドウィンさん怖がってるんだ。
「一緒に行ってください……。」
村の人がアリスをもてはやして可愛がっているのを聞いたことがある。今ならみんなの気持ちが分かる気がした。この子、犬みたいで可愛い。





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