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3章 カロック 4節 灰色の存在

 川は穏やかで、やっぱり大量の魚が飛び込んできた。私はまともに釣りができないらしい。お前の釣りは、小さい魚を逃がしてやる作業だな、とカロックは笑った。
「それで話というのはな」
「今日はおとなしく座って聞かなくていいの?」
「なに、それほどシビアな話じゃない。聞かれるとまずいがな。」
そう言いつつも、カロックは手を止め、船底に腰を下ろした。
「お前も、魚と遊びながら聞いてくれ。何故私が、わざわざお前がサキュバスだと話したかだ。」
そう言われると、私も手を止めなきゃいけないような気がしてくる。まだ魚はビチビチしているけど、ムリンが追い回して海に帰してくれているみたいだから大丈夫だろう。

3章 カロック
4節 灰色の存在

 まずはお前の感想から聞こうか。どうだった、サキュバスとして生きてみて。楽しかった、そうか。意外だな。ああ、ベラとフィオナが鉄壁のガードだから、妙な奴らは始末してくれたのか。ああ……そうだな。愛されていたのがわかった、うん。それを知ってほしかったんだ。
 お前のその力、誰にもらっているかはわかるだろう。お前が記憶をなくす前、お前を愛していた男だ。その男、おそらく今も生きて、お前を思い続けていることだろう。それ故のお前の力だ。サキュバスは、生前愛した男と結ばれたいがために美しく生まれてくると言われているが、それだけじゃない。男からの思いの強さは、そのままサキュバスの力になる。男に愛されるために美しいのか、愛されているから美しいのかはわからないが……誇りに思え、お前の美しさはそのままお前の力で、どれだけ愛されているかの現れだ。
 だが、それは同時に敵を惹きつける力にもなる。そして、敵意を生む力にもなる……。

 話は変わるが、予言の話は知っているか。魔族を根絶やしにしたとき、女神が降臨するというものだ。私は信じていないがな。お前もそうか。でもあれはただのお伽噺じゃない。現に大多数の人間はあの話に振り回されているだろう?
 あれと同じような話が、魔族にも伝わっている。人間を根絶やしにすれば、魔族の神が降臨する。何も矛盾はしないはずだ。生き残った方に神が降臨するんだからな。
 たった一種族の魔族を除いては。わかるか?
 サキュバスだ。生まれたときから人間を愛する。人間が根絶やしになったとき、それはサキュバスの楽園か?違う、そうだろう?
 その矛盾を解決する方法が一つだけあるんだ。マリー、お前肝が据わっているな、さらっと「殺す」って……。なめるなって?はは、リシタにぐうの音も出ないくらい言い返す子だったな、そういえば。その通り、魔族はお前を狙うだろう。だからお前はいつも囮のような役目になってしまったんだ。
 平気?強がりはよせ。……はっはっ、リシタに言っておいてやろう。喜ぶだろう。リシタが守ってくれるから平気か。男にとってこれ以上の褒め言葉はないぞ。

 ああ、まだ話は終わりじゃない……。腹が減ったなら魚焼いて食っていいからもう少し聞け。
 ……なかなかいい手つきだな。その男から魚の捌き方も習っていたのかもしれんな。それで、話の続きだ。

 聞かれてはならないのはここからだ。魔族に狙われるのはサキュバスだけじゃない。魔族と人間の混血種もだ。サキュバスと同じくらい狙われる。何故かわかるか。ここからは少し難しいが、わかっておかなければならない話だ。
 まず、サキュバス……言うまでもなく強い。死なない。そりゃそうだろう、幽霊みたいなものだからな。正確には、殺しても死なない。思われている限り、何回でも蘇れるということだ。
 そして魔族との混血種は、一般的に双方のいいとこ取りをして生まれてくる。……リシタやハルクが、人間離れした強さだと思ったことはないか?驚いたようだな、そうだ、あの二人も魔族と人間の混血だ。
 ハルクはゴブリンと人間だ。私達ジャイアントと同じく、何世代にもわたって同族交配を繰り返して一つの新しい種族になっているがな……。知っての通り、あいつの力は人間のそれじゃない。背も高いだろう?ただ、知性、理性は人間と同じだ。少しお人好しすぎるくらいだな。
 リシタは、ジャイアントと人間の混血だ。リシタの村の人間は、背が高くて力が強いことで有名だったんだ。だから、魔族にかぎつけられたんだろう……。

 私の村もそうだったんだ。全員武芸に長けてはいたが、平和な村だった。予言さえ、予言さえなければ……


 カロックはそこで言葉を切り、じっと水面を見つめた。
「リシタはな、何があったか聞いても決して話そうとしない。おそらく、私と同じようなことだろう。生き残ったという事は……誰かを見殺しにして逃げたという事だ。」
大きな拳を握りしめると、船縁に叩きつけた。
「私は妹を置いて逃げた。でも、あのときの私に何ができた?まだ4つの時だった。襲ってきたのはオーガだったんだ。力も何もかも劣った!」
リシタと同じだった。
「そう思って生きるしかなかった。逃げた自分を正当化して、誰かの世話になって……。罪滅ぼしのようにリシタを拾って育てた。でも私はまだ、オーガに何の復讐もできていない!……それさえも、無意味だからと諦めたんだ……。」
たった一つの、本当かどうかもわからないおとぎ話のせいで、私が知るだけでも二つの村が焼き払われた。人間って、魔族って、こんなにバカだっただろうか。本当かどうかもわからない話のために、平気で命を絶つような生き物だったか。
 私はカロックを見た。
「どうして、誰も言わないの?こんなのおかしいって。」
「もう、言葉で解決できなくなってしまったんだ。お互いに恨みを買いすぎた。」
おかしいと思う。噂だけで、人を殺せる?
「そんなに信じる価値のある物には思えないけど?戦わなきゃ、楽園なんて必要ないじゃない。みんなが天寿を全うできる世の中なら、楽園がほしいなんて誰も考えない!」
カロックはゆっくり顔を上げて微笑んだ。
「聡い子だ、マリー。」
気づけば景色が歪んでいた。優しい重さを頭に感じる。
「お前もおそらく、私と同じような理由で愛するものと引き離されたのだろう。私は全ての生き物が憎い。こんな世界を作ってしまった魔族も、人間も。……その憎しみ、忘れてはならないぞ。」
「この間は逆のこと言ってなかった?」
「ああ、どちらもむやみに憎んではならない。だがその憎しみと、世界に屈しない気持ちこそ、この世界を踏みとどまらせる力になる。」
カロックの言うことは訳が分からない。首を傾げると、彼はふっと笑った。
「魔族と人間は滅ぼしあう。でも、その最初の難関は、最後の砦は、サキュバスや混血種だ。我々が滅亡しない限り、予言は実現しないだろう?だから、まず我々が狙われるのだ。闇雲に戦うより、少数派を潰してしまう方が効率がいい、混乱も生まないからな……」
「私達は耐え続けるだけ?」
「強いだろうが。人間より、魔族より。だから戦争がこの程度で収まっているんだ。我々が生きている間は、全面戦争なんてやる意味がない、お互いに削りあうだけになるからな。……私が傭兵になったのは、双方の過激派を始末するためだ。我々は確かに矢面に立たされる。だが、面と向かって抵抗できるのも我々だけだ、マリー。だから憎しみを忘れるな、屈するな。でも、どちらも愛せ。」

 全て言い切ったカロックにドヤ顔をされた。
「おい、不満げな顔をしてくれるな……」
「いや、つい苛っと。」
「本当はお前にドヤ顔で言ってもらいたいんだが。考えたことはないのか、オーガとの混血種の村が潰されるほどの勢力を送られたはずなのに、何故ひ弱な見た目のお前が生き残っているか。」
言われればおかしい。カロックの話なら、私を愛してくれた人は生きているという。
「ないみたいだな……マリー、サキュバスは不死身だ。誰かから愛される限りはな。それを知らなかったのが娼館の愚か者どもだ。お前に仇なす輩は、その時点で自殺しているようなものなんだ。」
だから余計に狙われるが、とカロックが笑う。
「そういえばお前、知っているか、ヤックという男を。」
「あの殺し屋?」
「ああ。あいつはサキュバスと人間のハーフだ。不死身どころの話じゃない、傷すら負わないという噂だ。戦争の最後の歯止めでもある。……まあいい、とにかく、お前は自分の信じる道を生きろと言いたかっただけだ。生きてさえいればいいんだ。長話になったがな。」
カロックは立ち上がり、櫂に手をかけた。もう日が暮れかけている。帰る時間だ。


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