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2章 リシタ 4節 見殺しにした姉

 予感は的中、ノールは人間と敵対してしまった。単身敵陣へ斬りこむハルクに目いっぱいの防護魔法をかけた私は、攪乱作戦を実行するドウィンさんの隊に、救護班として参加している。
「マリー、いいか。安全な場所を離れるな。情けない話だが、単純な魔法の出力では、騎士団のヒーラーはお前に敵わなかった。自分の損失は他何十人もの命を奪うことになると忘れるな。」
「わかりました。」
返事をした瞬間、ドウィンさんは大きく目を見開いた。
「敵襲!敵襲!」
「なんだあの斧!」
「隊長、逃げてください!」
振り返れば、私の目の前には大きな体。両手に斧を持ったノールがいた。
『見つけた、見つけた。シャカル様もお喜びになるだろうよ。』
『私……の、こと?』
『そうだ。今日はついてるなあ?チーフテンがいなくなって、スケアドブラックの右腕になる。んでもって、裏切り者のお前も差し出せる。』
周りには、血を流す兵士達。このノールが欲しがるのは私。
『そう。それなら、どうぞ、捕まえて。あなたが捕まえられるかはわからないけど。』
ならば、取る行動は一つだ。このノールを隊から引き離すこと。
「マリー、何を話している!早く逃げろ!」
私を自分の後ろに隠そうとしたドウィンさんを押しのけて、走った。

2章 リシタ
4節 見殺しにした姉

 斧をガンガン叩きつけるしか能がないらしく、斧を投げるという考えに至らない相手だったのは不幸中の幸いだった。が、それより鬱陶しいのが弓を撃ってくるノールだ。先ほどから私の体に矢が刺さってくる。何故か肌に触れる前に砕けて折れるのだけれど。
『この、裏切り者が!』
『裏切った裏切ったってさっきからうるさいのよ。悪いけど、私記憶がないの。自分の名前がわからないくらいだから、何してたかなんて覚えてない。』
『貴様の種族は、昔から予言に反することを……』
『予言?変な宗教には興味ないから。』
『貴様、魔族と人間は相容れないと……!』
ノールが激昂し、冷静さを失ったところで、私はくるりと振り向いた。私が止まったことに喜々として斧を振り上げるノール。脇ががら空きだ。
「ファイアボルト」
手を翳すと、ノールは炎に包まれた。
 追ってきていたノールの群れもと目をやれば、地を這うような声がした。
「リバレイト」
何かきらめく独楽のようなものが、ノールを切り裂いている。赤い飛沫を散らしながら回るそれは綺麗で、ノールも呆けたように見つめている。そして、自らも飛沫を散らした。私の前まで来て回転を止めたリシタが、ぎらりと光る眼で私を見る。
「お前、何でそんなところまでマリーに似てんだよ。」
リシタの眉根が寄り、目にきらきらと涙の幕が張っていく。
「何で自分が犠牲になってまで人を助けようとするんだよ!」
膝をついたリシタは、地面に槍を突き刺し、涙をこぼした。

 俺が生まれ育ったのは、オルテル領の北端の村だった。いいところだった。そこそこ活気があって、子供も多くて、俺は家族5人で幸せに暮らしていた。そんなに兄弟がいるのかって?ああ、姉さんと弟がいたよ。弟はシルベリンっつって、1つ下なのに俺よりでかかった。姉さんがマリーだったんだ。お前に似てるよ。そうそう、近所にアイダンって王国騎士のおじさんもいたな。びっくりするだろ?
 その日も、なんてことなかった。俺達は家の仕事を手伝ってた。本当に、何が起きたかわからなかったよ。気が付いたら、アイダン隊長の娘が宙に浮いてたんだ。二足歩行の狼が、その子を掴みあげてた。何もできないうちに、その子の姉も殺されたんだ。周りでは大人も次々殺されていた。俺は逃げるしかなかった。
「リシタ、マリー、シルを連れて逃げて!」
って、母さんの声が聞こえて、とにかく隣の村に向かって走った。でも、マリーはそうじゃなかった。母さんを放せって、素手で奴らに向かって行ったんだ。でも俺は、立ち止まれなかった。逃げ続ける俺の横で、シルベリンも戻っていった。しばらくして、マリーが助けてって叫ぶ声が聞こえても、俺には足を止める勇気がなかったんだ。
 笑うだろ、お前に魔族だなんだと言っておいて、結局一番最初の人殺しは俺だ。せめてあの時、一瞬止まって、マリーに逃げろと言えばよかったんだ。それさえしなかった。マリーが走って行って、奴らが追ってこなくなったのは事実だ。俺はその状況に甘えて逃げたんだ。3歳のシルベリンでさえ、マリーを助けに戻ったのに。俺は家族を殺して、自分が生きようとしたんだ。

 だからマリー、もう無茶はするな、もう俺の前で死ぬなと、リシタは嗚咽を漏らしながら言った。横に座って背中をさすると、もっと涙を流した。
「カロックとか、ベラとかには、言うなよ。」
「知らないの?」
「こんな情けない話できるかよ。」
そう言って顔を上げたリシタは血塗れになっていた。
「ヒール」
ふわりとした光をあてると、あちこち切れたリシタの顔が元通りになった。同じように、傷だらけの腕や体も治す。
「いいって、ほっときゃ治る。」
「治りません。」
「もうやめろよ。」
「馬鹿じゃないの?」
わざと吐き捨てるように言うと、リシタが思った通りこっちを睨んだ。
「こんなしょうもない怪我でも、ひどくなると死んじゃうの。お姉さんを犠牲にして生き延びたんでしょ。何感傷に浸って死のうとしてるの?」
「感傷に浸ってなんか……!」
「浸ってる。俺可哀想オーラが出てる。いいから黙ってじっとしてて。」
背中の一際大きい傷に爪を立ててやった。ぎゃっと叫んで、縮こまる。おとなしくなったところで再生魔法をかけた。
「別に、感傷に浸るのが悪いとは言わない。でもそれに何の意味があるの。」
リシタがぎゅっと目を閉じる。
「うるせえ……」
「わかってるならもうちょっと頭使いなさいよ。」
がっと肩が掴まれる。でも痛いほどの力は入っていない。
「じゃあお前にはわかるのか?」
肩をなぞるように滑った手は、私の背中に触れた。
「俺は何をすればいい?何をすればマリーやシルベリンは帰ってくる?」
リシタの腕の中にすっぽり収まった状態で、私はぽんぽんと彼の背を叩いた。腕が締め付けてくる。
「どうすれば俺は、二人を忘れられるんだ。死ぬしかないだろ?もう楽しくなんて生きられない。面白いことがあっても、気分が明るくなっても、笑ってても、俺だけ笑ってていいのかっていつも思う。だからせめて、せめて二人を殺した魔族だけは根絶やしにしてやろうって……でも、それも間違いだったんだ……」
 私はゆっくり深呼吸して、口を開いた。
「私ね、何もかも忘れたわけじゃないの。私は誰か男の人と一緒に暮らしてた。……でも、結局私の最後の記憶はあの娼館の中だった。きっと私も攫われたのよ。一緒に暮らしてたその人は、私を置いて逃げたか、死んじゃったか、どこかで捕まってるか、何にせよ私を攫った奴らに負けたんだと思うわ。でもね、私その人を恨む気持ちは全くない。」
「そんなわけないだろ。」
「ただ、すごく会いたいの。」
リシタが息をのんだ。しばらくして、ふっと息を吐く。
「マリーに似た顔でそんなこと言わないでくれよ。マリーに言われてると思うだろ。何にも成し遂げてないのに自分を許しそうになる。」
「お姉さんも私と同じこと思ってるよ。そんな事件なんて起きなかったみたいに、一緒に暮らせたらそれでいいって。だから、きっとリシタにも同じこと思っててほしいと思う。」
「思ってるに決まってるだろ、マリー……」
彼は私の肩に頭を預けた。私をマリー本人だと思っているみたいに。リシタ、きっとお姉さんはもう十分だと思ってるよ。それだけ愛しているんだから。

2章 リシタ 了



長らくお待たせしました!
3章はカロックです!


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