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2章 リシタ 3章 心の決戦

 私を置いて、リシタは崩れていく階段の下へ走って行った。
「おい、お前何やってんだ!」
大剣を持った男が止めに入るのもかまわず、リシタは剣を構え、わずかに残っていた足場に突っ込んでいく。
「お前もそのガキと一緒に引っ込んでろ!」
彼の剣が最後の柱を切り崩した途端、嫌な揺れが襲う。見上げれば、鐘が、バリスタに縫いとめられた蜘蛛の上へと落ちてきていた。

2章 リシタ
3節 心の決戦

 あれからどうやって帰ったかは覚えていないけれど、気が付けば朝になっていて、起こしに来てくれたベラと食堂へ降りた。
「塔の上で何があったんだ?リシタがマリーをお姫様抱っこして降りてきたの見て、こいつ頭がおかしくなったかと思ったんだけど。」
自分よりでかい男がいるのにな、と笑うベラの後頭部に平手打ちが入る。
「ハルクはマリーが倒れたの見て動転して役に立たなかったんだよ!だからってあの上に置いて帰れってのか。」
リシタは下を向いたまま怒鳴り、遠くの席へ行ってしまった。そうか、私はあそこで倒れたのか。……待てよ、それをリシタが連れて帰った?お姫様抱っこで?
「素直じゃないな、血相変えてハルク追い越して塔に登って行ったくせに。」
「え?」
「マリーが塔に登って蜘蛛を誘導してたろ?それ見てバリスタで攻撃しようとしたんだ。地面でばたばたされるより戦いやすいからな。そしたらあの巫女さんが嫌がって……あのでかい蜘蛛、ペットなんだってな。」
ちょっとティイに対する敵意が和らいでいたけれど、和らげるべきじゃなかったと思う。
「仕方なし、傭兵団が歩いて登ることにしたのさ。でも、ノール……あー、二足歩行の犬だ……が、わんさかいて、ハルク以外全員やられた。それを見て私とフィオナはバリスタで討伐、カロックは怪我人救助、ハルクはティイと蜘蛛に会いに行く、って決まったんだがな、リシタはそんなの決める前にマリーを助けにすっ飛んで行ってたんだ。」
ベラは笑いながら、ジト目でこちらを睨んでいるリシタに手を振った。その横に座っている、リシタの倍くらいありそうな男が笑顔で手を振りかえした。
「というわけでマリー、仲直りの機会だ。今朝はあいつらと食べよう。」
正直嫌だ。何を話していいかわからない。でも、昨日朝から何も食べていない空腹感には逆らえなかった。

 リシタに何を言うべきか。
「ありがとう、助けてくれて。」
と正直にお礼を言うべきか、それともそれまでの無礼を詫びさせるか……
「いや、俺も悪かったよ。疑って。」
え、私今謝ったか。びっくりして見ると、リシタはうつむいたまま目玉焼きをつついている。その顔をベラがつかんで上を向かせる。
「おーい、リシター?謝るときはちゃんと目を見ろよー?」
「いいだろ別に」
「駄目だ。」
「わかったよ!もう!悪かったなマリー!」
敵意のないリシタの目は鷹のようで……自分でもどうかしてると思う、でも、きれいだと思った。
 この間蚊帳の外状態だった大男はハルクという。昨日大剣を振り回していた男だ。色白で、髪も目も銀色。炭とどちらが黒いかわからないリシタの横に座っていると、二人が同じ生き物だとは思えない。
「マリー、俺は怖くないのか?」
それがハルクの最初の質問だった。
「別に……牙でも生えてるの?」
「まさか!でもカロックがさ、体がでかすぎて怖がられたって言ってたから……。」
体の割に小さいことを気にする男だ。でも確かに、カロックを見るとびくっとしてしまうのに、ハルクは背が高いとしか思わない。
「私が横も大きいからだ。見目麗しいかどうかというところだな。はっはっはっ」
笑いながら横にドカッと座ってきたのはカロックだった。やはりのけぞってしまう。
「まだ慣れないか、マリー……。」
慣れろと言う方が無理だ。だってゴリラの大きいのがいるようなものだ。
「おいおい、こののっぽのガキよりカロックの方が男前だぜ、マリー。」
黙って首を振った。ベラは美的感覚がおかしい。誰がどう見たってハルクの方がイケメンだと思う。でも、カロックはそれで大いに機嫌がよくなった。
「じゃ、5人分飯とってくるよ。いや、カロックとハルクは2人前か。」
「ああ、ベラ、私はもう食べた。ハルクを呼びに来ただけだ。ハルク、ティイがお前を探していたぞ。」
「げっ、ティイか……。」
ハルクは思いきり嫌そうな顔をした。昨日あんなことがあったからだろう。ティイがバリスタを止めに入らなければ、蜘蛛と一戦交える必要はなかったのだ。いくらハルクが強かったとはいえ、あちこち包帯だらけになっていた。
「そう言うなって。傭兵なら傷ついて当然だぜ。」
リシタが同情交じりに言うと、ハルクはふるふると首を振った。体が大きい割に仕草のかわいい男だ。それほど年を取っていないのかもしれない。
「怪我くらい慣れてるよ。ただ、あの蜘蛛死んでティイめっちゃ泣いてたじゃん。鐘落ちてきた後俺止め刺したんだよな。」
見た目に反して意外と優しい少年ハルクは、溜息をつきながら席を立った。

 私を魔族扱いしたことを除けば、リシタはいい人だった。ただ、やはり私にはそれほど友好的ではない。というか、避けられている。朝食後命じられた傭兵団事務所の補修も、私とは違う場所に行きたがった。もちろん嫌がった時に、ベラに私を傷つけるようなことをするなと殴られていたのだけれど。
「リシタ、手伝って。」
そして今、私は避けては通れない道に来てしまった。力仕事。魔法でやろうとしたけれど、昨日の一戦で限界なのか、それとも神殿を建て直したのがいけなかったのか、屋根板一枚持ち上げられなかった。ハルクに頼もうと思って探したものの、ハルクは昨日鐘塔にいたノールの調査に行ったと美人の女性騎士に言われてしまった。カロックは既にもっと激しい力仕事に駆り出されてしまっていた。
「え、ああ、何だ。」
リシタがぎこちなく微笑む。嫌われてはいないらしい。
「屋根板持ち上げられない。屋根の上まで上げてくれる?」
「そっか、まあ、あれだけ魔法使えば疲れるよな。今行く。」
それどころか、優しい。ベラやフィオナに対するより優しい。
「リシタは疲れないの?」
「え?まあ、塔登って足場崩しただけだからな。そういえば……落ちた時怪我しなかったか?あのまま足場ごと落ちたら助けられないと思って、マリーがしがみついてた段切り落としたんだけどさ。」
あの双剣はリシタのだったのか。
「うん、大丈夫。ありがとう。」
「ははっ、ならよかった。」
もうすぐ秋なのにまだまだ暑くて、リシタはシャツで汗を拭っている。腹筋は色も相まってチョコレートに見えるくらいバッキバキに割れていた。これだけ鍛えれば疲れないのかもしれない。背もチビチビ言われている割に私よりは高くて、ベラにいじられるほど頼りないわけではなさそうだった。
「私の事嫌いじゃないの?」
屋根板を手に取ったリシタに聞いてみる。と、リシタは屋根板を落とした。
「そんなわけないだろ!マリーの事嫌いになるなんて!」
「え?」
「あ、ご、ごめん……」
急に大きい声を出されてびっくりしたけれど、リシタの方が動揺していた。
「嫌いじゃないさ。お前のこと敵だと思ってただけだからな。」
ベラは、マリーはリシタが呼び間違えた名前だと言っていた。おそらくリシタが会いたがっている人だと。リシタは小さいころに村を焼き払われたと言っていたから、だとすれば、もうその人はこの世にいないんだろう。
「お前こそ、怒ってないのか。俺の事嫌いじゃないのか。」
「……うん、嫌いじゃないよ。」
縋るように聞いてくるリシタを傷つけないように、私も笑って返した。これだけ思われていた人なら、きっと幸せだっただろうし。思いが吹き抜けていく横に立っているだけの私は、少し心が痛むけれど。
 ふと視線を感じて下を見ると、ハルクがいた。大きい体で肩を落とし、眉もハの字になっている。
「どうしたの、ハルク。」
「いや、ちょっとさ……。マレックに怒られたんだ。」
「あんな奴の言うこと、気にすんなよ。」
先程までとは打って変わって、リシタは元気よく答えた。板を担いでひょいひょいと屋根に上り、そこに胡坐をかく。
「で、何て怒られた?」
ハルクも屋根に上ろうとしたが、梯子がきしんで慌てて降りた。
「ドウィンさん、あの美人な女性騎士ががいただろ。その人に、北の廃墟にノールがいないか調べて来いって言われたんだよ。で、行ったらマレックに騎士団の犬かってブチ切れられた。」
「そんな落ち込むなよ。思い出せ、あいつそうやって偉そうに言ってるけどさ、昨日何か役に立ったか?ハルク以外の傭兵全員塔に入った瞬間やられたじゃねえか。どうせ、実力不足で騎士になれなかったんだろうさ。」
「リシタ、マレックが聞いてたらどうするの。」
「お嬢さんの言うとおりだ、色の黒い傭兵。」
後ろから声がして飛び上がる。
「私もあいつとは話が通じないが、人の口に戸は立てられんからな。慎め。」
見上げれば、ハルクはいないと教えてくれた騎士だった。
「お嬢さん、屋根は直ったか。まだなら力を貸そう。」
「大丈夫です。リシタがやってくれました。」
「そうか。何か困ったことがあれば来るといい。記憶を失くしたと聞いたが……不自由なことはないか。」
優しくて、美人で、かっこよくて、言葉遣いが丁寧なベラみたいだ。
「はい。名前も付けてもらいました。」
「何と?」
「マリーです。」
「マリーか。覚えておこう。私はドウィン、王国騎士だ。」
ドウィンさんは、私の頭にぽんと手を載せて微笑むと、宿屋へ入っていった。ハルクが目をこすっている。じーっとドウィンさんの後姿を見て、またゴシゴシ。
「え、あの人あんなに優しかったか?てか俺にはあんなに優しくないんだけど。」
「ハルク、お前が誰かに優しくされてる図は気持ち悪いだろ。身長2m越えの大男を甘やかして何が楽しいってんだ。」
「いや、ケアラにもきついってば!唯一人間らしく扱われるのアイダン隊長だけだよ。」
ああだこうだ言う二人を見ながら思った。この二人だけは一生可愛がられないだろうなって。

 それから数日、私は色々な人と触れ合い、名前を覚えてもらった。ドウィンさんが普段怖いのは本当らしい。お使いで傭兵団事務所に顔を出すと、いつもドウィンさんが微笑みかけてくれるけれど、それを見たマレックとケアラもハルクと同じ反応をしていた。他にも可愛がってくれる人はたくさんいる。羨ましいぐらいの胸の谷間を豪快に出した、トレジャーハンターのアネストさん。鍛冶屋に寝泊まりしているようだけれど、鍛冶屋のファーガスさんより主導権を握っている感じがする人だ。私が行くと、よく来たわねかわいこちゃん、と私の頭をバインバインな胸に押し付けてくる。嫌味か。冒険家商店というよくわからない店に行くと、どことなく辛気臭いカースティーさんがいつも物憂げな微笑で見てくる。自虐ネタばかり言うのはやめてほしい。ネタでなくただの自虐なので気分が暗くなる。魔術師の家には、偏屈のブリンという男と、いつもフードをかぶっている男がいる。ブリンは性格が悪いわけじゃない。ベラ曰く、ツンデレというものらしい。フードの男は、私が行くたび凄まじい殺気を放ってくるので嫌いだ。宿屋には、蜘蛛大好き天然少女ティイと、育ての親のエルンワスおじいさん、そしてローブを着て変装したつもりの猫がいる。何に変装しているのかはわからないが、オレンジ色の猫だ。触るとふわふわして気持ちがいい。
 私をいつも大歓迎してくれるのは、雑貨屋だ。今日も入るなり飛びついてきたクローダを引きはがすのに5分かかった。離れた頃には、クローダの新作であろう服に着せ替えられていた。店主のアイリエさんも、最近やってきたというフェネラおばさんも、何でもないような顔をしてみているけれど、抱きついている間に服を脱がせて着せ替えるなんて変態のすることだ。
「やっぱマリーは何着せても可愛い!私の腕がいいのかな?」
「あー、そうだと思う、たぶん。」
クローダはクローダで鬱陶しい。ティイとは違う鬱陶しさだ。でも今日の服は可愛いと思う。期待した目で見てくるので言ってあげた。
「これは可愛いと思う。」
「よかったわね、クローダ。ハルクにかぶせてた生々しい帽子だったらどうしようかと思ってたわ。」
一体何されたんだ、ハルク。帽子については聞かない方がよさそうだと、溜息をつくアイリエさんを見て思った。
「ハルクって野獣!って感じするでしょ!すごく似合ってたもん!」
「ああ、そういえば、ハルクという子はとても強いんだってね。」
フェネラさんは上手くクローダを黙らせながら話題を変えた。
「そうなの!何をお願いしても持ってきてくれるんだよ!赤いノールの皮お願いしたんだ。」
お前は黙っとけ、クローダ。というよりちょっと待て。赤いノールはノールのボスだとカースティーが言っていた。
「それは無理でしょ。ノールチーフテンはノールのボスだよ。ノールと戦争でもしないと手に入らないし、戦争になったらまずそんな余裕がないよ。」
「えー。」
頬を膨らませているクローダを、無性に引っ叩きたくなった。アイリエさんもきょとんとしている。
「戦争は、何かを殺さなきゃいけないのよ。それがハルクにどれだけ負担になるかわかってるの?」
「マリー、怒ってる?」
「これが怒ってなくて何なのよ。ティイもクローダもアイリエさんも、平和ボケしすぎてる!」
思わず大声を出した瞬間、遠くで角笛が聞こえた。緊急招集命令だ。
「ノールの皮を手に入れるためには、ノールを殺さなきゃいけない。クローダ、貴方達の望みは、そういうものだということ、忘れないで。」
外へ出て、傭兵の慌てぶりを見て、嫌な予感がした。嫌な予感だなんて、つい数日前、私は何十人も殺したのに。さっき言ったのがきれいごとだなんて、わかっている。でも、実際に手に掛けない部外者が、利益のためだけに、何も考えず殺生を命じるのは、絶対に間違いだ。

 最近、そういうことばかり考えるの。宿で、何匹殺しただ何を手に入れただ、頭の悪い傭兵が英雄ぶって言うたびに。
『世の中の英雄と言われる人達の殆どは、ろくに考えもせず、自分に指一本触れてない相手を、触れさせないまま殺すだけで英雄と言われてる。』
『ただ相手が『敵』だから、深く考えもせず殺したのよ。』
フィオナが言った言葉を思い出すの。


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コメント

小説、すごい楽しみにしてるんだー!
マリーちゃん、何気に口が悪くてすきよ…
フィオナちゃんもリシタに容赦無くて好きよ…

いろいろ忙しいと思うけど、体調崩さない程度に小説書いてー!待ってるからー!

ま、まめさんからコメントだと……!
これは頑張らねば!

ついこの間まで鬼のテストラッシュだったんです。「大学生になったら遊べるよー」とか母に騙されてましたけど、あれは嘘だ!
今はパソコンが機嫌悪いので、本家の方で遊んでますよ(・∀・)
モリアンサーバーで名前は一緒です!

モリアンだと、、、
5ch生息の、元料理人が通りますよっと☻

明日のメンテで料理ランク5解放だけど、6トレ終わってないや、、、

Re: タイトルなし

だって苺さんのブログでモリアンって書いてたから……
モリアンに新キャラ作りました!

あっちの龍さんは吟遊詩人です。
龍さんだからもちろん弓です。
でも緊急脱出用武器は改造しまくってクレイモア並みの攻撃力になったリュートです!

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