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2章 リシタ 2節 集中砲火

 結論から言うと、私は傭兵団には入れなかった。アイダン隊長は昨日の事件の真相を知っているらしい。というか、フィオナがアイダン隊長に報告したせいで傭兵団幹部には広まっていて、今朝のリシタとの喧嘩のせいで傭兵全員に知れ渡っていた。
「正当防衛とはいえ、コレンも少なからず被害を受けた。」
やっぱり、そううまくいくとは思っていなかった。男達を、人間を殺したのは理由があっても、コレンまで巻き添えにしたのは許されないってわかってた。
「ああ、そんな顔をするな。君が解放した女の子のご家族が、今朝お礼を言いに来てくれた。命の重さに優劣はないが……何かを救うために、然るべき犠牲を払っただけのことだ。」
要するに私は悪くないということだ。でも、犠牲じゃなくて報いじゃないのかとも思う。不服そうなのが顔に出たのか、隊長はふっと笑った。そして声を低くする。
「建前はそうとして、私は君がやったことが間違えているとは思っていない。傭兵団に登録することはできない……だから、魔族との表だった戦闘に君を連れて行くことはできないが、君のその魔法と気の強さ、置いておくのは勿体ないと思う。報酬は払うから、力を貸してくれないか。」
 私の最初の任務は、コレンの神殿の片づけを手伝うことだった。

2章 リシタ
2節 集中砲火

 コレンの宿屋は、エルンワスさんというおじいさんと、ティイというフィオナくらいの年のお姉さんが切り盛りしている。二人とも温和で、ティイなんて皆にもてはやされてアイドル状態だ。料理はうまいし、間違いなくおいしいし、優しいし、可愛い。ごはんの美味しさだけは本当に認めざるを得ないんだけれど、私はティイが苦手だと思った。
 白い巫女服なんて似合いすぎてて女神そのものに見えるけれど……ひがみだとわかっているけれど……。何十人も殺した私にはその姿が眩しすぎた。エルンワスさんに大事に育てられたお嬢さんと、牢の中に閉じ込められていた私と。ティイの見る世界は、きっと私は見られない。ティイが言うほど、世界は美しくも儚くもない。私の世界は、もっとどろどろに汚くて、でももっと重くて痛くて楽しいものだ。
「ごめんなさい、神殿の管理は私の仕事なのに。」
私の心が腐っていると言いたいなら言えばいい。でも、壊したのが私と知っていて謝る必要がどこにある。むしろ嫌味にしか聞こえない。
「いや、私のせいだし。」
「そんな、女の子たちを助けるためだったんでしょう?」
「私が出たかったの。自分の牢屋を吹っ飛ばして、そしたら閉じ込められてる子がいたから出しただけ。なんか美談みたいになってるけど、村を壊したのもあの娼館にいた男を殺したのも私なんだよ?」
ついつい語気が荒くなる。ティイが黙ってしまったが、私にどうしろというの。正当防衛だった、でも、人を殺して心が荒れない人間なんている?
 神殿は燦々たる状態だった。コレンよりも娼館に近いから、影響が大きかったらしい。
「女神様のご加護は……」
ティイは美味しそうな匂いのするバスケットを持ってきていた。この口ぶりからして、女神の加護で神殿は壊れていないから、私を村から連れ出して、お弁当を食べてリラックスさせて……と考えていたんだろう。つくづく優しい人だ。でも、優しすぎる。
「女神なんて、いるわけない。」
「マリーちゃん?」
「女神がいたら、魔族が人を襲うわけがない。私があんなふうに閉じ込められたはずがない。そこで羽がもげている像は、ただの白い石だ。誰も守ってくれない。ただ人が不安だから、勝手に作った美人の像だよ。」
神殿の柱はすべて倒れて、粉々になっていた。真ん中に、羽が砕けた像がある。
「マリーちゃん、女神様には、私達を守る力はないんですよ。」
ティイはこの状態を見ても、まだ信じているらしい。女神とやらを。
「昔、世界を壊そうとしたドラゴンがいたんです。女神様はそのドラゴンを封印するために、全ての力を使ってしまいました。ただ、眠りに落ちる前に人間に約束をしたそうです。魔族を全滅させれば、再び目覚め、人間のための楽園を作ると。それが、魔族との戦争の理由でもあるんです。」
理由は分かったけれど、腑に落ちなかった。
「それに、守ってくれなかったわけではありません。神殿の高い柱が爆風を止めたおかげで、コレンの被害はあの程度で済んだんです。」
確かにコレンは助かった。でもその前に、私に爆発を起こさせなければ、私をあんなところに閉じ込めなければよかったはずだ。
「理解はできたけど、私は信じないよ。」
ティイを見上げてみれば、寂しそうに笑っていた。その優等生さ、気に入らないのよ。
「人を殺した後、生き物を殺した後、人が幸せになれると思う?」
今の私が、私がやったことは絶対間違ってないと正当化して、人を殺したのを忘れて生きていけると、そう思うの?
 少し開けた場所に、拾った粘度の塊で円を描く。唐草模様も正確に、そして古代文字。
「マリーちゃん?」
「離れてて。女神なんて信じない。でも、だからって自分が壊したもの直さないほど子供じゃないし。」
誰に教わったのかわからない言葉が、自然と出てきた。
「リバースグラビティ!」
岩が浮き上がっていく。神殿は元の形へと戻っていった。
『……、もう俺よりうまくできるようになったんだな。』
~その瞬間、目の前に森が広がる。懐かしい家、嵐で飛んでしまった屋根板を担いで梯子を登る青年の顔は見えないが、彼は横を漂う板を見て優しく言った。~
「一瞬で……すごいですね……ふふっ、お昼もってきててよかったです。」
「魔法は、全て、あの人を助けるためだけに覚えたのに……」
「……マリーちゃん?」
そう、人を殺すために覚えたわけじゃなかった。あの人が、幸せに暮らすためにと教えてくれた。なのに私は、それを復讐のために。人を殺すために使ったんだ。
「マリーちゃん、貴方が起こした爆発は、人の命を奪ったかもしれません。でも、それは貴女を守るためだった。あなたに魔法を教えてくれたその人は、貴女が辛い思いをするのは望まないと思います。」
ティイはお弁当を開けて私に見せた。
「神殿も直りました。コレンの窓も同じように直せば、それで女神様は許してくださいます。あの男の人たちに非がなかったわけではないのですから。お昼食べて、元気出しましょう?」
でも私はティイの胸に顔をうずめる方を選んだ。情けない。優しすぎるとか嫌っておいて、こうやって甘えているんだから。頬に何かふわふわした物が当たる。
「ほら、ベンシャルトも心配してます。」
涙が流れてきた瞬間、ティイの体がこわばる。慌てて離れると、私の後ろを見て凍りつくティイ。
「食べたい……?ベンシャルト何を言っているの?逃げろ?どうしたの?」
振り返ると、そこには口が。
「どうしたの、ベンシャルト、この女の子は食べ物じゃ……」
大蜘蛛の口があった。

 咄嗟に作り出した氷の壁が、一瞬で砕け散る。
「やめなさいベンシャルト!」
腰を抜かしたまま叫ぶティイを浮かせて、とにかく神殿を出た。神殿の門を崩しながら、大蜘蛛が追ってくる。蜘蛛に火の玉をぶつけると、蜘蛛が怯んだ。
「マリーちゃん、やめて!私が落ち着かせますから!」
「何言ってるの、こんな大きい相手なんだよ!」
無理矢理魔法から抜け出し、蜘蛛に這いよるティイを、爪が襲う。慌てて壁を作ったが、制御しきれずティイまで氷の中に入れてしまった。が、おかげで氷はティイごと遠くに弾き飛ばされた。蜘蛛が私に向き直る。狙いは私だけらしい。
 ならば、始末するまで。またコレンには迷惑をかけることになるが、あそこには傭兵がいっぱいいる。とてもこの蜘蛛を一人では倒せないから、できるだけ被害のないところに誘い込んで、皆で叩けば……
「こっちおいで、私が食べたいんでしょ?」
ふと目に入った鐘塔。あの中に逃げて、ちらちら姿を見せていれば、塔を上ってくるだろう。下から槍かなんかを投げたら討伐できるはずだ。私は一目散に塔へ走った。
 しかしこの蜘蛛、どうにもおかしい。先ほどから何度も火の玉をぶつけている。ここまで痛い目に遭えば、普通の生き物は食欲なんて忘れるだろう。なのに鐘塔に飛び込んだ私を追いかけ、壁に体当たりを繰り返している。早く上に登って姿を見せなければ、塔が崩されてしまう。遠くで、傭兵の叫び声がする。蜘蛛がより多くの食料に気を取られる前に、降りられない高さまで登らせなければ。
 と、私の頬を矢がかすめた。
「アイスブラスト!」
とんできた方向を睨んで叫べば、二足歩行の犬の氷像が数体転がり出てきた。どういうこと?まさか、魔族が村を攻めている真っ最中だったってこと?でも今はそんなこと気にしていられない。妙な犬の一匹や二匹なら放っておいても問題ないが……今塔を揺らしている大蜘蛛は、地上にいさせてはならない。
「おいで!私はここよ。」
また飛び出してきた二足歩行犬を階段から突き落とし、私は2階の窓から顔を出した。案の定、蜘蛛が体を盾にして登ってくる。
「マリー!」
声がして下を見ると、炭のような顔のチビが立っていた。今はあんたの説教聞いてる場合じゃない。無視して、蜘蛛の爪が窓に刺さる直前で避け、三階へ駆け上がった。
 窓の外では、傭兵団が隊列を組んでいる。屋上へ出てみれば、バリスタ隊の前でティイが何か言っていた。蜘蛛は順調に上ってきている。見ていると、アイダン隊長達はバリスタを置いて歩いてやってきた。何をしているんだ。あの蜘蛛に、肉弾戦を挑むつもりなのか。
「あんたに剣と盾で挑んで勝てるわけないじゃないの……ねえ?」
蜘蛛を上からのぞきながら言う。と、下からすさまじい怒鳴り声がした。何を言っているのかよく聞こえないが、チビだ。後列の兵士に追い返されている。騒ぎを聞きつけたフィオナが、ああ……いつものように剣を突き刺している。リシタではなく、その兵士の方に。そうこうしている間に、隊長たちは鐘塔に入ってきたようだ。
「もう少し上に行こうよ、ここからあんたを突き落したって死なないから。あのおじさん達、あんたに勝てると思って来たのかなあ。」
ほぼ同時にのそのそと上がってきた蜘蛛の攻撃を後ろに飛んで避け、私は階段に足をかけた。上を見上げれば、大きな鐘が見える。そうだ、あれを蜘蛛に落として潰してしまえばいい。

 けれどこれが難しい。蜘蛛が歩くたび塔が揺れ、階段もあちこち腐って抜ける。蜘蛛はといえばその場でじたばたと暴れ続けている。その足元で巨大な剣を振り回す男がいた。蜘蛛の方が押されている。だがあの剣、そう長くは体の方が持たないはずだ。急がないと。
 と、追い打ちをかけるようにバリスタ攻撃が始まった。巨大な鉄の矢が降り注ぐ。揺れはさらに大きくなり、私が立っている所から下が崩れた。間一髪で上の段にしがみつき、蜘蛛もろともぺしゃんこになるのは回避する。が、揺れがひどくて動けない。そうこうしているうちに、バリスタから逃げようとした蜘蛛が登ってきた。いや、違う。私を狙ってきている。まずい。逃げられない。
「っ、ファイヤーアロー!」
気休め程度の火の玉が飛んでいく。この状況じゃ集中できない。
「ファイ……!」
私のすぐ横に、バリスタの矢が突き刺さる。振り返ってみれば、バリスタが数十本、こちらへ飛んでいた。うち一本は、あのまま飛べば私に刺さる。そうでなくても、全ての足場が崩れてしまう。
「ぼけっとしてんじゃねえ!」
声が聞こえた瞬間、私がしがみついている段に2本、剣が突き刺さった。両サイドを切られ、板が重力に逆らえず外れた。私と一緒に。蜘蛛は目標を見失い、階段の上でただバリスタに貫かれていく。蜘蛛の姿がどんどん離れて行った。目を閉じる。せめて、せめて落ちた時痛くありませんように。

 肋骨が折れたかと思うほどの衝撃と、男の呻き声。今まではさして気にしていなかった蜘蛛の鳴き声がいやにうるさい。
「こんの……バカ女が……」
顔を横に向けると、真っ黒な肌。睨みつけてくる猛禽類のような黄色の目。その向こうに、バリスタに崩された足場が轟音を立てて落ちてくる。
「空中で体勢立て直せ!何諦めて頭から落ちてんだ!」
「え?」
「とりあえず引っ込んでろ!てめえは上から落ちてきたものに当たって死にそうだ……。」
やや投げ飛ばすように私を安全なところに入れた男は、リシタだった。



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