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1章 マリー 4節 オルテル城のサキュバス

 暗い地下水路の中、男の声だけが響く。
「まずいことになった。例のサキュバスが逃げたらしい。」
「そうだろうさ、学のないものに預ければ、結果は見えているだろう。」
「今回は私の失敗だ。精気があれほどの力を与えるとは……。」
「責任もって、今回は殺してもらうぞ。何人の魔術師が犠牲になってもな。」
キッキ、とあたりが騒がしくなる。
「どうした、ネズミどもがうるさい。」
瞬く間にネズミの鳴き声は止み、つんと鉄の臭いがした。カツカツと、落ち着いた足音が近づいてくる。
「殺せないことはわかっているから安心しろ。」
「誰だ!」
 カンテラを向けた先に、弓を構える男がいた。次の瞬間、二人の膝に激痛が走る。
「殺すのは面白くない。貴様らが死なないことは知っているしな。だが俺は、お前達が弓使いに痛めつけられなかったということも知らない。」
男が軽く飛び、長い脚を振り抜く。二人は壁に叩きつけられた。
「誰だ、私にこんなことをしてただで済むとでも……。」
「お前がこのことを人に話せたら、の話だろう。どうせ、泣き叫んで命乞いしかできないようになる。」
弓を背負い、彼は2人の前にしゃがみこんだ。
「あいつと同じ目に遭わせてやろう……。二度と、手を出すな。」
少し皺のある赤い目が、妖艶に弧を描いた。

1章 マリー
4節 オルテル城のサキュバス

 オルテル城にはサキュバスがいる。絶世の美女だが、会いに行った者は帰ってこなかった……。
「男って馬鹿ね、インケルス?死ぬと解ってて来るんだから。」
「たまには生きたまま返してやってはどうだ?」
黒目がちな大きな目、長い黒髪に白い肌、抜群のプロポーション。この上ない美女を膝に乗せたまま溜息をつくのは、オルテル城主インケルス。美女はシルヴィアといった。
「駄目よ、この不細工、懸賞金目当てで来てるもの。レディーに対する礼儀がなってないわ。」
シルヴィアが覗き込む水晶玉の中には、大きな黒い犬に追い詰められた男がいた。犬の鋭い歯が男の首を裂き、男はずるずると崩れ落ちた。
「それでもまだ美男子なら、吸精してあげてもよかったんだけど。」
そう言って、彼女はインケルスの頬を撫でる。
「貴女にキスできないのが残念だわ、インケルス。」
「してくれても構わないが。」
「執務中です、インケルス様。」
 無表情で立つ青年はシルベリンという。
「まったく、お前は堅いな。」
「今のこの不安定な情勢で、色事に現を抜かすのはおやめください。」
インケルスが眉をひそめる。
「いつものことだろう、この程度。」
「シルヴィア様は、気付いてらっしゃるでしょう。」
そう言い捨て、彼にしては珍しく……叩きつけるように扉を閉めて出て行った。
 インケルスが目を向けると、シルヴィアがふいと目を逸らした。
「あいつは反抗期か?18と言えば、わしも大暴れしていた気がするが。」
「違うわ……」
シルヴィアの暗い声に、インケルスも心配したように眉尻を下げた。
「何かあったのか。」
「サキュバスが生まれたの、コレンの近くで。昨日の晩、大爆発を起こして。」

 サキュバスは男を惑わせ、精気を吸う魔族だと言われている。他の魔族ほど敵視されていないのは、偏にその美貌のせいだとも言われている。だが、それは真実を知らない者達の話だ。
 サキュバスは、恋煩いの生む魔族。道半ばで命を絶たざるを得なかった者本人、あるいは残された恋人の思いが募ってサキュバスを生み出す。彼女達は結ばれることのなかった恋人を探し出し、思いを遂げるために、美貌と、永遠の命を持って生まれてくるのだ。確かに精気を吸えば吸うほど強力にはなるが、それは生前恋路を絶った他者を排除するための力に過ぎない。彼女達が眠りにつくのは、恋人と結ばれ、現世に思い残すことがなくなった時だけだ。あるいは、彼女達を形作る魔力をかき消すような傷を受けた時だけ。
 そしてもう一つ、サキュバスの出現は世を乱すとも言われている。
「あの子は思い出しているのよ。私が自殺した後、私がサキュバスになった後、何が起きたか。」

 シルヴィアは当時ロチェストの司教だったレウラスという男の一人娘だった。本当の父親ではない。母は娼婦で、シルヴィアはレウラスに拾われたのだ。美しく成長し……そう、シルヴィアはサキュバスになる前から美しかった。それ故王国騎士のインケルスと恋に落ちた。だが、インケルスはシルヴィアを嫁にもらうには、腕が立ちすぎていた。
 一つの領土と城を与えられていたインケルスがレウラスの娘と結ばれれば、王家にさえ口出しできる。それほどインケルスは人望があり、強かった。そして、レウラスは結婚を許さず、シルヴィアを王家に嫁にやったのである。
 シルヴィアは結婚式の前の晩、自殺した。そしてサキュバスとなって、インケルスの元へ戻った。

 インケルスが苦しげに口を開く。
「あれは偶然だと何度も言っただろう。確かにお前が自殺したことで私は王家から敵視されるようにはなった。だが魔族の襲撃とそれは別だ。」
「貴方は人が良すぎるのよ。レウラスは聖職者なんかじゃない。あの男は、私をいかに利用するかしか考えていなかった!」
インケルスはそっとシルヴィアの背を撫でた。
「シルベリンはあの襲撃で、村の人も家族も亡くしたのよ。アイダンだって、家族を亡くした。あれさえ起こらなければ、アイダンが法王庁に目をつけられることもなかったのに……。」
シルヴィアは頭をインケルスに預け、服をぎゅっと掴んでいる。サキュバスが世を乱すのは事実だった。何かどうしようもない力のせいで死に別れた恋人たちが、その力を壊すべく、生まれてくるのだから。
「考えすぎだ、シルヴィア。たとえあの魔族の襲撃を、法王庁がけしかけていたとしても……お前はシルベリンも、アイダンも、大事にしていただろう?あの二人が恨むべきはお前じゃない。魔族と黒幕だけだ。」
インケルスは、水晶玉の中の骸を睨みつけながら言った。
「どれほど侵入者が来ようと、この城の中は安全だ、シルヴィア。その新しいサキュバスも、我々には関係ないだろう……。もう二度と、お前を一人にはしないから、安心しろ。」

 自室の扉を乱暴に閉め、ベッドに倒れこんで、息を整える。忘れられない、あの日。目の前で刺された両親、食い千切られた姉の顔。
「失礼なことをしたかな……。」
傷ついた表情のシルヴィアを思い出して、シルベリンの胸は痛んだ。あの襲撃の直前、シルヴィアがサキュバスになったと聞きはしたが、彼自身、シルヴィアのせいではないと思っていた。だが、どうしても、誰かに気持ちをぶつけなければ耐えられない。本当に恨むべき相手は、近くにはいない。
 ベッドサイドの写真たてを取る。襲撃の後、家から見つけ出してきたものだ。一部分ちぎり取られた写真の上は、何重にもひびが入っている。シルベリンはそこに親指をかけ、ぐっと握りつぶした。
「マリー、父さん、母さん……あいつだけは許さない。絶対に見つけ出して、同じくらいの苦痛を与えて殺してやるから……。」
また数本、硝子にひびが入った。


1章 マリー 了


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コメント

おっ!
続ききてた〜

そして、
遂にカイさん登場だね!

この流れだと、ハルクさんも・・・!?

カイさんは筋金入りのドS希望・w・
ハルク出す気なかったんですがね・・・・・・

ちょうどよくお顔が公開されそうなので、出てきますね。ほぼモブ扱いでw

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