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1章 マリー 3節 似ている少女

 爆発が起きた場所はすぐ見つかった。コレンからロチェストへの道の真ん中あたりで、小屋が燃え上がっていた。
「助けてくれ!俺たちが悪かった!」
「逃がしてくれよ!」
思わず口元に手を持っていこうとするリシタの背に、フィオナの蹴りが入る。
「行くわよ。何怖気づいてるの。」
「っせえ、平気だ!」
くしゃりと顔を歪めながら剣を引き抜いたリシタに、フィオナは少し申し訳なさそうな顔をした。昔からそうだ、彼女は優しく慰めるのが上手くない。ついつい発破かけるようなことをしてしまうのだ。と、走り出しかけたリシタが突然立ち止まった。
「……マリー……?」

1章 マリー
3節 似ている少女

 燃え上がる小屋の前、少女が首をかしげている。
「どうして生かさなきゃいけないの?貴方達が生きていたら、もっと多くの女の子が辛い目に遭う。」
リシタの見つめる先の少女は、何も纏っていないように見えた。呆然とするリシタと少女を見比べ、フィオナはとりあえず少女に問いかけた。
「お嬢ちゃん?何か知っているの?」
「あいつらは化け物。助けなくていい。」
少女の格好と、凄まじい殺気から、何があったのかおおよそ理解したフィオナは、それでもまだ納得できず尋ねた。
「あなたが爆発を起こしたの?誘拐犯達を拘束して?」
「うん。」
「あなた一人で?」
「うん。私、何も悪いことしてないわ。他の女の子は逃がしてあげた。」
殺したいのはあいつらだけだから、と言った少女は、次の瞬間消えていた。一瞬の後、彼女がいた場所に二本の剣が振り抜かれる。
「リシタ!」
「フィオナ、何ぼさっとしてんだ!そいつのケツを見てみろ!」
「男なんて嫌いよ。」
リシタの背後に現れた少女が手をかざす。が、何も起きない。首を傾げた少女に再びリシタが切りかかるが、フィオナの盾に阻まれた。
「何しやがる!そいつの印が、魔族の証が見えねえってのか!」
「見えたわよ、でも恥を知りなさい、リシタ!」
フィオナが盾でリシタを弾き飛ばす。
「丸腰の女の子に何する気なの?」
「魔族に女もくそもあるか!」
「自分で考える頭のない馬鹿より魔族の方が、まだ話が通じるわ!」
立ち上がったリシタの頭に、再びフィオナの蹴りが入る。
「この子が何をされたか考えなさい。魔族だから人間に何をされても構わないの?」
「嘘かもしれねえだろ!」
「この子が嘘をつく必要があるの?」
遂にリシタの胸を踏みつけて起き上がれないようにしてしまったフィオナは、出来る限り柔らかな表情で少女に向き直った。
 少女が信じられない言葉を口にする。
「お姉さん、あいつらは魔族よ。」
「え?」
「人の家を襲ったの。それで女の子を攫って、ひどいことをした。」
背後から聞こえる叫び声は、人間のものだ。
「魔族が人間の言葉を喋るものか!フィオナ、放せ!」
「静かにしなさい!」
「魔族の言うことなんて信用できるか!放せよ!」
少女を見れば、リシタを睨みつけている。
「私をあんな奴らと一緒にしないで。」
「何時まで白を切るつもりだこの雌豚が!」
「黙っとけっつってんのが聞こえねえのか!」
フィオナの右足に更に体重がかかり、リシタが呻く。
「リシタ、貴方は、魔族は意味なく人間を傷つけ、人間はいつも被害者だと言いたいの?それなら、今は貴方が魔族でこの子が人間ということで構わないでしょうね?私に殺されたって文句は言わない?」
「そいつが今何人焼き殺してるか解ってんのか、フィオナ?あんたは魔族に襲われたことがないから、そんなことが言えるんだろうさ。」
フィオナが剣を抜く。
「じゃあ貴方は」
リシタの首すれすれに、剣が突き刺さった。
「人間に襲われたことはあるの?貴方の家族は、村の人々は、偶々魔族に殺されたかもしれない。でも私の家族は人間に殺された。」
リシタが目を見開く。
「それでも貴方は、この子が悪いと言うかしら?確かに褒められたことはしていないでしょうよ。でも、もし貴方が、この子と同じ目に遭っていたら、何をするでしょうね。」
「お姉さん、私は魔族なんかじゃない。」
未だリシタを睨む少女の頭をそっと撫でた。
「ええ、貴女は悪い子ではないわ。でも、貴女も少し間違ってる。」
「どうして?だってあいつらは!」
叫んだ少女が、ふらりと座り込んだ。フィオナが駆け寄ると、潤んだ目でフィオナを見つめてくる。
「怖かったのね。」
「うん……。」
遠くでは、男達の断末魔の叫びが響いている。
「あれ……?」
「どうしたの?」
「私……あいつらに何されたか、憶えてない……」

 眠ってしまった少女は宿屋に預け、未だぼんやりしているリシタは投げつけるようにして怪我人の群れに放り込んで仕事に集中させ、フィオナはこの件を迅速に片づけた。少女の右の臀部に魔族の証があったことは隠して。
「どうやったかはわかりません。ですが、あの少女は監禁され、その他にも被害者はいたようで……。」
「本当はどうやったか知っているんだろう?」
低く聞いてきたアイダンに、そこは正直に首を振った。
「隊長は何か心当たりでも?」
「そういうお前は、私に何か隠している気がするが……まあ、お前は悪人には見えない。事件の裏が、表沙汰にするようなことではないからな。だが何か問題が起きれば……」
「ご理解いただけて何よりです。」
一礼し、事務所を出た。と、想像通りの人物が扉の横に立っていた。
 リシタはむくれたような、それでいて情けなさそうな表情で、ふてぶてしくフィオナを睨んだ。
「どうしたの?蹴られ足りないかしら。」
「いや、その……でも俺は、魔族が憎い。それは変わらない。」
「それはそれで当然よ。私だって、いつか親の仇を討つと心に決めて傭兵になったんだから。」
フィオナがじっとリシタの目を見つめる。
「少しは考えてくれた?貴方と私に差はない。意味なく誰かを殺す奴らを憎んでいるだけ。あの子とも差はない。あの子は自分を監禁した奴らに復讐しただけ。」
「本当にそうか?あいつは嘘をついてないと何故言い切れる?」
「私は魔族より人間の方が嫌いだから、そう思うのよ。」
フィオナは居心地悪そうに笑った。
「あの子が嘘をついていると思うなら、あの小屋をもう少し調べてきたら?何か証拠が出てきたらあなたは納得するでしょう?私が考えを変えて、あの子がサキュバスだってアイダン隊長に言うかもしれないし。」
「ほんと、どこまでも図太い奴だよな、お前。」
リシタが溜息をつき、剣を抜いた。月明りに翳して、傷がないか見ている。
「あなたは小心者すぎるわ。自分が悪いと思ってないなら、私を待っとく必要なかったんじゃない?」
「女怒らせたら怖いってベラに言われたからな。」
剣を収めると、リシタはローブの前を引き合わせた。
「悪かったよ、辛いこと思い出させて。」
「私もちょっとやりすぎたわ。怪我してない?」
リシタが目を泳がせる。あちこち見まわした後に、ばっとうつむいた。
「あ、あの程度で怪我するほど……」
くるりと踵を返すと、捨て台詞のように叫びながら走っていく。
「心配なんかするなよ!お前に腹立たなくなっちまっただろ!」

 少女はサキュバスだった。人でも魔族でもないが故に魔族を見分けられるカロックがそう言ったのだから間違いない。だが、混乱している少女に、そして魔族を憎む彼女にそれを告げるのは酷だった。結局、問題になるまではこの話を葬ってしまおうということになった。
「私、ひどいことされたのは覚えてるの。でもそれが何だったか、思い出せない。」
ただでさえ、少女自身がこの状態である。あれだけ男達を憎み、殺気を発していたというのに、時間が経って落ち着くと、自分が無意味な殺人をしたのではないかと言い始めた。
「まあ、ちょっとやりすぎかもね。」
カロックのシャツをワンピース代わりにしている少女の髪を梳いてやりながら言うと、膝を抱えてしまった。
「でも、本当にあれお嬢ちゃんがやったの?並みの魔力じゃできないわよ?」
フィオナは少し期待しているところがあった。いくら監禁されていたとはいえ、皆殺し、それもかなり苦痛を伴う方法で少女が何十人もの男を殺したとは考えたくなかった。
「どうやったかもわからないけど。でも、私がああなって欲しいと思ったら、なったの。」
「そう……」
「私、悪いことしたんでしょ?また牢屋に入れられるの?」
フィオナは微笑んで首を振った。
「きっとそんなことは無いわ。あなたの他にも女の子はいたんでしょう?」
「うん。」
「その子達の家族は、子供が帰ってくるのを待っていたはず。その人たちにとって、お嬢ちゃんは英雄よ。」
「でも私は殺しすぎた。あいつらは魔族で、いろんな人を殺した。でも、私はあいつらと同じことをしたの。」
少女が膝に顔をうずめる。フィオナが撫でてやれば、こてんともたれかかってきた。
「それがわかっているだけで、貴女が牢屋に入れられることは無いと思うわ。世の中の英雄と言われる人達の殆どは、ろくに考えもせず、自分に指一本触れてない相手を、触れさせないまま殺すだけで英雄と言われてる。中には本当にいいことをした人もいるんだろうけど、私が知ってる英雄は、そんな奴らばっかだったわ。ただ相手が『敵』だから、深く考えもせず殺したのよ。そんな奴らがこの国を、世界を動かしているけれど……。」
形の良い小さい頭は、フィオナの手にぴったりと合っている。
「もし奴らがお嬢ちゃんを牢に入れると言うなら、私が絶対に許さない。」
少女が目を上げる。
「お姉さんの仲間は?あの男は?」
「お嬢ちゃんに危害を加えるなら……さっき蹴りまっくた時の3倍くらいはやってあげる。」
「あははっ、お姉さん強いんだね。」
濡れた目が弧を描くのを見て、フィオナは軽く眩暈を覚えた。カロックの言葉が甦る。
『フィオナ、あの子が敵だとすれば、危ないのは……男であれ、女であれ、サキュバスは狙った相手を確実に口説き落とす能力があるということだ。お前は大分あの子に肩入れしているようだからな。』
ふるふると首を振り、暗い考えを吹き飛ばす。傷つけられた少女に味方などいない。自分まで疑ってかかれば、この子は一人になってしまう。
「そうそう、私はフィオナよ。名前で呼んでくれて構わないわ。」
「フィオナ……ありがとう、私は……私は……。」
少女が大きく目を見開いた。
「私、誰だかわからない。私は誰?どこから来たの?」




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コメント

長編小説の予感!

この女の子はもしかして・・・!?

そして、続きはまだですか?

黄泉さんやないですかぁ!
お久しぶりです。

この女の子、さあ誰でしょう(●´∀`●)
次は英雄さん達から少し離れますよー

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