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1章 マリー 1節 アイダン隊長の微笑み

 とうに日は暮れ、村人達も寝静まってしまった頃。本の何も書いていないところを睨んでいたケアラは、轟音で目が覚めた。
「痛えっ!何しやがるゲレン!」
見れば床にマレックが転がり、怒鳴られたゲレンはといえば机に突っ伏して寝ている。
「マレック、見たところお前が勝手に寝て勝手に椅子から落ちたみたいだが。」
いつもにこりともしないアイダン隊長が温和に微笑んでいる時点で、この状況の説明がつく。
 「働きすぎ」である。

1章 マリー
1節 アイダン隊長の微笑み

 横柄な態度で出て行った王国騎士団の人間にマレックが舌打ちしたのは、今から8時間ほど前のこと。
「何だって今更騒いでんだあいつら!殺し屋始末しろって、そういうのは奴らの仕事だろ!国家のお尋ね者じゃねえか!」
「ああ、またヤック探しなのね……見つかるわけないじゃない……」
いつもはマレックを諌めるケアラでさえ、ため息をつく。
「今わかってんのって、ヤックがどんな女も男も惚れる超絶イケメンで、金さえ払えば魔族の依頼でも聞くってことだけだよなあ。頭にくる野郎だ。顔さえよければ人生うまくいくんだよ、ったく。」
そして、普段は全く二人と意見の合わないゲレンでさえ、二人に頷いた。ケアラが頷き返す。
「しかもイケメン過ぎて、居場所を突き止めても傭兵団員が絆されるのよ……最初に、油断させようと思って送った女性兵士は腰砕け、男ならどうだと思って腕の立つのを行かせてみたら頬っぺたにキスされて気絶したですって!?」
思わず机を叩いたケアラの前に、湯気の立つマグカップが置かれる。マレックとゲレンにも。三人がはっと顔を上げると、隊長が自分の机に戻るところだった。背中で語っている。働けと。
 彼らが頭を悩ませているのは、近頃……いや、最初に騒がれたのは15年前、途中で音沙汰なくなったものの5年ほど前からまた有名になってきた殺し屋である。通称ヤックで、その呼び名は本人が名乗っているらしく、15年間変わっていない。顔まで知られていて、指名手配のポスターには腹立たしいほどのイケメンと、一生遊んで暮らせる額の懸賞金が書かれている。そして極め付け、普通に町に姿を現すという。ひどいときは首都ロチェストにまで。
「隊長、あんな奴捕まるんですか?騎士団が今まで15年探してきて、見つける度に逃げられてるんですよ!場合によっては幹部格が殺されてる!」
アイダンの無言の圧力にも負けなかったマレックが吠える。アイダンはゆっくりと振り返った。
「なら、何故騎士団がヤックの件を我々に投げたか考えてみろ、マレック。」
「自分たちが殺されるのが嫌なんでしょう!」
「あるいは我々の誰かが犠牲になるのを狙っているかもしれない。だが本当にそうなのか?私の記憶では、ヤックに殺されたのは幹部数名。新米の騎士は特に、傷一つつけられていない。まあ、頬にキスをされて精神的なダメージは受けたかもしれんが。」
ケアラが首をかしげた。
「なら何故私達に?騎士団の方が情報網は発達しているのに。」
アイダンが傾きかけている太陽を眺めながら口を開いた。
「ケアラ、マレック、ゲレン。お前たちにこの仕事が降りかかっていないとしよう。ある日、この上ない美青年が、金持ちで傲慢な貴族を暗殺したと聞いた。だがその美青年は、ターゲット以外には傷一つ付けていない。貴族が死んで、領民の生活も楽になった。男2人は美女で想像してみろ。」
「「「キスされて気絶したいです」」」
「正直だなお前たち。」
彼は紅茶を一口飲んで、溜息をついた。
「むしろ騎士団ほっとけよって思いますね。」
「そう聞くとただの義賊ってことっすか。」
「似顔絵とか売り出されそうだぜ……。」
「その通りだ。騎士団が調査すればするほど、騎士団の評判が下がる。そして、一番厄介なのはヤックの人気が増してしまうことだ。だから彼が町で買い物していても決して捕まらない。ここは一度民間に逮捕を任せて、ヤックの話を消してしまった方が得策だと考えたんだろう。」
だからまあ、そこまで思い詰めなくてもいいだろう。その言葉で3人は大人しく机に向かった。隊長が投げやりなことを言うなんて、相当疲れているから。

 では何故この夜更けまで彼らが粘っているか。ヤックのせいではない。彼らは早々に諦めるという形で仕事を頑張ってしまっていた。今抱えている問題は、騎士が出て行って30分後にさかのぼる。死んだはずの女性が、傭兵志望で訪ねてきてしまったのだ。そしてその1時間後、殆ど素性のわからないジャイアント種族の男と、背の低い少年と、記憶喪失の女性が、こちらも傭兵志願者としてやってきた。
 少年も身元不明なのは同じだが、彼はまだよかった。ジャイアントの男が少年を拾ったという場所では魔族の襲撃があり、行方不明者も多数存在したからだ。ジャイアントも、幻に近い存在だったため、そもそも調べる手段がない。問題は女性2人だった。記憶喪失の方の問題は、彼女がえらく強いということ。強い女ぐらいいると言われるかもしれないが、なんせ動きが人間離れしている。訓練されきったような体の動きだが、育ての親であるジャイアントはそんな軽やかな身のこなしなどできなかった。記憶を失う前にどこにいたのか、何をしていたのかが分からない事には、記憶喪失が本当か嘘かもわからない。そして一番の問題児は、死んだはずの方だ。彼女は10年前、内乱に巻き込まれたとされている。そして死亡が確認されたのは騎士団のお膝元、ロチェスト。
「す、すみません……。」
起き上がりながら謝るマレックに、アイダンが仏の笑みを浮かべながら首を振った。
「今日は終わりにしようか。」
「でも隊長、ロチェストへの新入団者報告は次の日までじゃないですか。明日は日曜で、騎士団本部が休みです。」
ケアラの頭をポンポンと撫でながら、仏が言う。
「元々ずさんな管理で、フィオナを死人扱いしていたのは騎士団だ。それに、月曜に入団したことにしてしまえばいいだろう?」
突然ゲレンががたっと立ち上がった。給湯室へ行ったかと思えば、驚きの速さでホットミルクを持ってくる。
「隊長の言うとおり、今日はもう寝ましょう。隊長もこれ飲んで寝てください。風邪の引き始めかもしれません。」
ゲレンの手が震えている。ケアラとマレックはゲレンのあり得ない献身的な行動に震えた。
「ありがとうゲレン。わかった、もう寝るとも。」
震える3人をよそに、ミルクをおいしそうに飲み干したアイダンは事務所の扉を開いた。

 部屋の物が吹き飛んだ。
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コメント

読み易くて、続きが気になる話☻
うちは、書けないしOTL

次もwktkしながら、待ちます☻

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